
<2007年4月 週刊SPA!より>
最近、CMでもチラリと見かける「08年、首都高は距離別料金制に移行します」の文字。いったいどうしてそういうことになったのか?
端的に言えば、「お上がそう決めたから」。道路4公団民営化にあたって、政府・与党は、「首都高速と阪神高速は、リース料の支払いに必要な料金収入の確保を図りつつ、平成20年度を目標として、対距離料金制への移行を図る」と申し合わせた。
距離別料金への移行そのものは、はるか以前から議論されていた。現在の均一料金制は、「利用距離が短くても長くても料金が同じで不公平」と言われてきたが、首都高(と阪神高速。以下同じ)は出口料金所を設けるスペースがないため、仕方なく導入されていた。それが距離別になるというのは、まったくの正論だ。
ただ、首都高の場合、「リース料の支払いに必要な料金収入の確保」という一文がついている。
旧道路4公団は、先の民営化にあたって、45年以内に借金(建設費等)の返済を終えると法定された。旧日本道路公団は、現状の料金水準でも返済可能と見られるが、首都高ははるかに財務状況が厳しく、料金収入を大幅に増やさなければ無理。つまり距離別料金制の導入の真の目的は「収入増」なのだ。
ちなみに、財務状況が破滅的だった本四公団は、道路特定税源の投入を受け、すでに借金をチャラにしてもらっている。
●公平になる
短い距離なら安い料金、長い距離なら高い料金は理の当然。均一料金制よりはるかに公平だ。
●短い距離でも気軽に利用できる
現在検討されている料金体系によれば、一番安い料金は300円程度。700円の均一料金では、短い距離なら一般道を使うケースも多かったが、距離別になれば、「もったいない」という感覚はかなり薄まり、今より気軽に利用できるようになる。ちなみに現在、首都高で最も多い利用距離は「10キロ前後」。10キロの利用だと、520円という計算になる。
●渋滞が減る
現在の均一料金制では、一度首都高に乗ったら、多くの人が渋滞していてもそのまま我慢していた。一度降りてまた乗れば、料金が2倍かかってしまうからだ。
ところが距離別になれば、混んでいる部分は、料金を払ってまで利用する価値がないことになり、慣れたドライバーは、混み始めたら一般道に降りて迂回し、その先でまた乗り直すという行動を取るようになる。職業ドライバーなどがその筆頭。
一方、空いている区間は、いわゆる「チョイ乗り」が増えると期待され、今より交通量は増える。
混んでいる部分は今より空き、空いている部分は今より混む。渋滞を緩和しつつ、料金収入も増やすことが可能だ。
●環境にいい
渋滞が減ればそれだけムダな燃料消費も減り、当然環境にいい。
ただ、料金設定によっては、首都高は空いても一般道の渋滞が大幅に悪化するケースも考えられる。
つまり、距離別料金制を社会全体にとってのメリットにするためには、料金水準がカギを握ることになる。
●長距離利用者に対する大幅な負担増をどうするのか
現在700円で走れたものが、最高1700円になれば、「ふざけるな!」となるのが人間の心理。大型車は最高3400円という急激な負担増になる。
とは言っても、現在検討されている首都高の料金水準は、東名高速の東京―厚木間(大都市近郊区間)とほぼ同じ。東名に許されて首都高に許されないというのは、理屈としてはおかしい。
ただし首都高の場合、現状、東名ほどの早達効果がないのが問題になる。
東名の場合、並行する国道246号線に比べると、時間短縮効果は7割以上。よほどの渋滞でも、国道を走るより遅いことはまずない。一方首都高は、現在の昼間の平均速度は約40km/h。一般幹線道路は約20km/hなので、時間短縮効果は約5割だが、上り線に関しては、一般道より時間がかかるケースも多い。
つまり、東名と同じ水準の料金を取ったら、「首都高には乗らない」というクルマが相当数出ることが考えられる。特に料金が2倍の大型車には頻出するだろう。首都高の渋滞は大幅に減っても、一般道が悲惨なことになりかねない。
急激な負担増と一般道の状況悪化を避けるために、長距離利用者の料金の割引きや、一定額での頭打ち制度が検討されている。
●非ETC車をどうするのか
距離別料金制の導入にあたっての、最大の問題がこれだ。現在、首都高のETC利用率は74%前後。さらに伸びてはいるものの、100%になることはあり得ない。公益性を考えれば、現金払いを残さないわけにはいかないが、首都高に出口料金所を設けるのは不可能なので、現金客に距離別料金を適用するのは極めて難しい。
出口のカメラでナンバーを撮影し、後日電子マネー等で返金、あるいは次回以降の利用のためにプールする、といった方法も検討されているが、「ナンバーを確実に撮影できるのか」に始まって、技術的な難問が山積している。
現金客だけ現状の均一料金を据え置けば、長距離利用者は全員、現金払いを選択することは間違いなく、距離別料金制の意義そのものを崩壊させる。
現金客からは、距離別料金の最高料金を取る以外、確実な解決方法はないが、料金水準によっては、大きな反発が予想される。
導入まであと1~2年に迫りながら、解決策は見えていない。
●うまくやらないと首都高大バッシングが起きる
7年前に書いた『首都高はなぜ渋滞するのか?』で、すでにETCを使った距離別料金制の導入を提唱していた私は、そのメリットを十分評価しているが、導入を目前にした今、残された難題の多さに唖然としている。
なによりも最大の問題は、非ETC車の扱いだ。非ETC車はいわば「弱者」。扱いによっては、「弱者切り捨て」の名のもと、大マスコミが首都高バッシングの大キャンペーンを張るだろう。
確かに、クレジットカードを作りたくても作れない人の存在は、切り捨てられない。そういう人のために、「ETCパーソナルカード(パソカ)」が発行されているが、利用するためには最低4万円をデポジットで入金しなければならない。クレジットカードすら作れない経済的弱者に、4万円を捨てろという方が馬鹿である。
しかし、首都高に距離別料金制を導入するためには、これを活用するしかない。そこで私は、首都高専用のETCパソカの発行を提案する。
現在のパソカは、NEXCOでも利用できるため、4万円という高額なデポジットが必要だが、首都高に限定すれば、2000円程度にすることも可能なはず。最低2000円のデポジットなら、なんとかなるのではないか。それでもETCを拒否する人には、現金で最高料金を取るしかない。
ただし、現在の3料金圏は残し、東京区間は200~1000円、神奈川区間200~800円、埼玉区間200~500円とする。
この水準なら、一気に2倍以上といった激変はなく、長距離客の過度の首都高離れ↓一般道の大渋滞を避けつつ、渋滞緩和と料金収入の確保が図れるのではないか。首都高の早達効果から考えても、このくらいが適正な水準だろう。
これで45年以内の償還が不可能なら、首都高(株)は、国や自治体に対して、道路特定財源の投入を要求すべきだ。政府・与党の申し合わせにも、「国および地方からの出資について検討する」という一文があり、その方が公益にもかなう。
首都高は、国や自治体に対しても、きちんと物を言うべきなのだ。すべてを料金に転嫁しようとすれば、ひとり悪者され、袋叩きに遭ってしまう。
(解説)
07年、首都高と阪神高速が距離別料金制を導入しようとしていた時の記事。その後08年のリーマンショックで距離別導入はフッ飛び、現在は「12年度から導入」を前提に、料金圏なしの500~900円という超長距離優遇の料金体系が検討されている。なぜ首都高で長距離を優遇するのか? 渋滞は悪化の方向に振れるし、外環道が開通してもそちらに迂回した方が高くなってしまうケースが出る(特に東京-横浜間)。詳しくは拙著『首都高速の謎』をご覧ください。














